外縁の響

音楽のガイエン、そしてゲエンとしての響

改造エスラジ3-共鳴弦2・12音共鳴弦

基本的にエスラジの共鳴弦(ターラーフ)は7本の弦が1オクターブ7音に割り当てられます。

しかしこれだとラーガや音階が変わる場合、共鳴音が鳴らない音が出てくることがあります。そのため他の音も共鳴させるために、1オクターブ12音−7音=5で5本の共鳴弦をつけ加えることを考えました。最低のオクターブに最低これだけ加えれば、倍音の関係でその上の音にも共鳴音がつきます。

下の図で左右各々の図の縦2列の丸の左側が新しく加えた弦です。これはわかりやすさのために書いたもので、実際には縦二列ではなく弦の通り道のために一列になります。

エスラジのターラーフはパ=ソから始まっているので、最初のオクターブでファ#から半音階になるよう共鳴弦を加えます。それが下の図の左(12音タラフ1)ですが、洋楽をやっている人にはピアノの鍵盤のように並んでいた方がわかりやすいかもしれません(12音タラフ2)。 

12音タラフ

 

下の写真の一番左が12音タラフ1に相当します。

12音エスラジ

追加したペグはギターのものです。ですが大抵のギターペグはポスト(軸)が短すぎるので、探すのに苦労しました。これは板の厚さによるのですが。

理想を言えばあと2オクターブ分の共鳴弦を追加したいところですが、そうなると楽器に負担がかかりすぎるかもしれません。いずれにしてもこのような改造は他ジャンルとのセッションなどには必要な事だと考えます。

改造エスラジ4-消音器

消音器、いわゆるミュートは色々な楽器に使われる音量を小さくするための備品で、エスラジ自体の改造と言うわけではありませんが、テーマが煩雑になるのも避けたいのでここに書きます。

エスラジは擦弦楽器なのでバイオリンなどの西洋楽器のミュートが使えるかと思いました。下の写真のような物です。

バイオリンのミュート

形は色々ありますが、駒に差して使うものが一般的だと思います。ですが、エスラジの場合は駒に共鳴弦が入っているためにミュートを深く入れることができません。

それでボディーと駒の間に板のようなものを挟んで消音しようと考えました。

最初はプラスティックの板を入れてみましたが、効果があまり出ません。ミュートがボディと接している事以外に、バイオリンなどの場合もそうであるように消音には重さが必要なようです。なので今度は鉄の板を使おうと思いつきました。実際にはホームセンターで建物の鉄骨のようなものを買って細工をしました。

自作ミュート

これはかなりの重さがあります。ですが19本の弦に抑えられて微動だにしません。

自作ミュート2

自作ミュート3

左右の端のガムテープは弓が滑り込まないように貼ったものです。
期待通り効果は充分あります。ですが、ミュートなしの普段の状態だと弦の圧力で駒がボディにかなり沈み込みますが、このミュートをつけるとそれがないので弦高はだいぶ高くなります。特に高いポジションでは演奏した感じが結構違ってきます。練習に支障は無いのですが、本番の前にはミュートを外して感をもどす期間が必要です。
それと、着脱時には19本の弦をかなり緩める必要があります。バイオリンのそれと比べると結構手間がかかります。

ちなみに他にも色々試しましたが、このミュートより消音効果は劣りますが、取り付けが簡単で扱いやすいのがハンコを押す時に使う下敷きでした。

 

インドの旋律とエスラジの奏法研究3-手首の回転

このブログシリーズの3つの奏法はどれも教師から教わったものではありません。ただここで扱う手首の回転は意識の持ちようということもあって、実際は多くのエスラジ奏者が実践しているのかもしれませんが、それは私にはわかりません。

手首の回転奏法とその利点と難点

伝統的な奏法において音程を変える時に「手首を柔らかくして」ポジションを移動することを書きました。この時の手首の角度は必ずしも意識する必要はないのですが、これによって意識的に別の音程を出すようにすることもできます。言い方を変えるなら手首の位置、つまりポジションを変えることなく、手首で角度をつけることによって音程を変えることができる、ということです。例えばエスラジで低いサ=ドを1指=人差し指で押さえるとすると、ポジションを変えずに手首の回転だけで上のガ=ミ、下のダ=ラまでは指が届くと思います。

実際の演奏では手首をしならせて、あるいはムチのように手首を使うので、手首の位置が全く変わらないということではありませんが、腕の位置を変えずに行うことができ、フレーズ全体から腕の移動回数を減らすことで演奏の負担も減らすことができます。それに加えて二本指奏法での指使いの煩雑さもある程度避けられる場合があります。

しかしこの方法はこれ以前の奏法(ポジション+指=音程)が正確なピッチで行えることが前提となり、またそうであっても音程が不確かになりやすいのでこの点も練習によって克服する必要があります。

実際の例

例えばサレガレサ(ドレミレド)と演奏する場合、以前の指使いでは

1・1 2 1・1 または

1 2・2・2 1  となります。

「・」はポジションの移動を表しています。つまりこのフレーズでは2回のポジション移動=腕の移動が必要です。

手首の回転も使った演奏をしてみます。手首を「音程の」高い方(つまり下)に回す場合は指番号に↑マークを、低い方に回す場合は↓マークをつけると、

人差し指がサの位置で 1 2 2↑ 2 1 または

人差し指がレの位置で 1↓ 1 2 1 1↓  となります。

これらの場合腕の移動は必要ありません。ポジションも変化なしと見ることができます。

これまでの奏法の混用

以上で私の書きたかった奏法の解説は終わりですが、最後に伝統的な奏法、二本指奏法、手首の回転奏法の3つを使った例を、前回のラーガ マルコーンスのフレーズで説明します。他の指使いも可能ですが例として伝統的+二本指奏法と、それらに手首の回転奏法を加えたものを1例ずつ挙げておきます。

サマガダ|マガサニ|ダー (ドファミ♭ラ♭|ファミ♭ドシ♭|ラ♭ー)

伝統的+二本指奏法 1・1・1・1|・2 1・3 1|・1

+手首の回転奏法  1・1・1 2↑|2 1・3 1|・1

 

インドの旋律とエスラジの奏法研究2-二本指奏法

二本指奏法とは

左手の手首の位置をポジションと呼ぶとすると、二本指奏法では1つのポジションで人差し指と、中指または薬指を使います。三本の指を使うのになぜ二本指奏法なのか、といえば、薬指は届きづらい時に中指の代わりとして使うからです。例えばエスラジの一番外側の弦(1弦)の低いサ=ドを人差し指で取るとレ=レは中指で取ります。ラーガまたは音階にレが無くサの次の音がガの場合は薬指で取ります。

例として、ドレミファ(サレガマ)と4つの音をひくのに一本指奏法では4つのポジションを取ることになりますが、二本指奏法では2つのポジションを使うことになり、単純に言えば手首の移動が半分の回数ですむことになります。このことによって明瞭に音程を出しつつ早いフレーズをひくことが容易になります。

二本指奏法サレガマ

階段のような線は音程の変化を表しています。二本指奏法ではポジション移動は瞬間的に行いますので、レとミの間もポルタメントには基本的にはなりません。ですから、前項の繰り返しになりますが、二本指奏法ではインド音楽特有の歌い回しである滑らかな音程変化にはなりません。反面、たとえば欧米音楽などを演奏する場合にはより有用な奏法と言えるでしょう。

このエスラジの基準音はDです。

二本指奏法の難点

この奏法では、習熟するのに難しい点があります。一本指奏法ならばどの指を使うかに迷うことはありませんが、二本指奏法では同じフレーズであっても複数の指使いが可能なため、「どの指を使うか迷う」という問題が出てきます。

これ以降、人差し指=1(指) 中指=2(指) 薬指=3(指)と呼びます。

例えば、下のサ=ドより上ではドレとひく時12で良いのですが、ドより低い音域、例えばソラなどとひく場合、距離が遠くなるので13を使ったりします。また、先ほどのフレーズ「ドレミファ」を1212とひく以外に1121とひくこともできます。そして特に五音音階(アウダヴァ)の場合には3指を多用することになるのでより練習が必要です。例えばミファミド(ガマガサ)とひく時は1231とも1211とも3331ともひくことができます。

このように複数の指使いの可能性がある場合、ひきにくいと思うやり方こそ練習しなければなりません。そうでないと特定のフレーズやラーガが他と比較してひきづらいことになり、手癖を多用しやすくなったり自由な即興のさまたげになると感じます。

一本指奏法と二本指奏法の混用

一本指奏法と二本指奏法で適した場面が違うことは書きましたが、前出の「ドレミファ」で1121の指使いのように一時的に1指が連続するだけでなく、1つのフレーズ内で両方の奏法を使うことも当然可能です。

例えば、ラーガ マルコーンスで

サマガダ|マガサニ|ダー (=ドファミ♭ラ♭|ファミ♭ドシ♭|ラ♭ー)

とひく場合、前半の4音は一本指、後半は二本指奏法でひくことが考えられます。

1111|2131|1ー

前半のようなギザギザした動きは一本指奏法では比較的得意なフレーズです。

別の指使いとして次のようなものも考えられます。

1113|1313|1ー

ところで、このマルコーンスというラーガではダ(ラ♭)をひく時にニ(シ♭)からポルタメントで下がってくるという規則があります。この指使いでひくとニとダは違う指となって単純にひくとポルタメントにはなりません。それでフレーズ最後のダをひく直前に1指をニまで瞬間的に上げてからゆっくりダまでおろす、つまりニの音で3指と1指を入れ替えるというテクニックを使います。

このエスラジの基準音はDです。

 

   →インドの旋律とエスラジの奏法研究3-手首の回転

インドの旋律とエスラジの奏法研究1-伝統的な奏法

ここではインド音楽特有の旋律の音程変化から考えていきますが、演奏のために包括的にその特徴を考察するもので、個別のラーガについてはほぼ言及しません。

インドの旋律の特徴

インドの音楽は声楽(歌)が基本になっています。ですから器楽であってもそれに倣う形で演奏されます。

それで多くの場合基本的に旋律は曲線のように音程が変化します。つまりある音高と次の音高は滑らかに繋げられます。これはいわゆるメロディーでも装飾音形でも言えることです(例えばガマクなど)。

もちろんこれを一定の速度で変化させればどの音高を表そうとしているかが不明瞭になるので、変化のスピード、滞留時間、リズム、強弱などによって目的の音高とその変化(=旋律)を表します。特にエスラジのような擦弦楽器では時間的に発音点がはっきりしないためこの問題は重要です。また逆に急速に音高が変化すれば明確さが増しますがインド音楽特有の表現とは離れます。

この奏法は大雑把に言っていわゆるポルタメント奏法と言えるわけですが、大抵は西洋のそれのように単純ではありません。インド音楽では色々な音程変化があるのですが、例えばドレミ(サレガ)を線で表すと下の図のようになることが多いです。

インド音楽の音程変化

音形が逆に下がってくる場合、例えばガレサのような場合は線も上下が逆の形になります。

インド音楽の音程変化2

インド音楽の奏法

繋がった音程変化を表すのにエスラジでは一本の指しか必要ではありません。伝統的なエスラジ奏法では実際そのとおりで、おもに人差し指だけで奏されます。中指(と、稀に薬指)は補助的に使われます。

しかし、明確な音程変化を表す場合や同方向に連続して音程を変化させる場合、特にそれらを急速に行う場合にはかなり難易度が上がってしまいます。各音程の間を指が移動するだけでなく、加速度のついた腕を正確なピッチで一瞬でも静止させる*1必要があるからです。エスラジの場合は比較的に弦長が長いこともあってなおさら難しいことです。

このような動きをスムーズに無理なく演奏するためには、動く→止まる→動く→止まる、ということを機械的、デジタル的に行うのではなく、円を描くイメージで手首を柔らかく使いつつ腕を動かす、という動作が必要です。この動きは速度が上がれば円は小さくなり線はより直線的になります。手首もより硬くします。

手の移動イメージ

このエスラジの基準音はDです。

一本指奏法と二本指奏法

このような人差し指のみの伝統的な奏法を、私は一本指奏法と呼んでいます。この奏法はインド音楽の旋律の表現に適していて、特にゆっくりとした演奏では難しさもありません。ですが、ある場面では前述したような難しさもあり、また聞き手がインド音楽を聞き慣れていない場合には何をやっているのか分かりにくいという面もあると思います。

私の場合過去に西洋音楽コントラバスをひいていたこともあって、人差し指と中指を交互に使うことをエスラジを習う当初から考えていました。先生にそのような演奏法がインドにあるかと伺った際には「ないこともない」というようなお答えでした。

それでこのやり方を二本指奏法と考え、自分で実験をしてみることにしました。つまり一本指奏法に加えて二本指奏法も練習することにしたのでした。

私としてはこの実験はある程度成功したと考えています。だからこそブログに書く意味もあると思ったわけですが、このようなことをせずに伝統的な奏法だけをひたすら修練していれば、20年以上たった今頃は大名人になっていた可能性もなくはなかった?かもしれません。

結局はその人自身が「どのような音楽をやりたいのか」によって、この奏法の有用性は変わってくるでしょう。

 

    →インドの旋律とエスラジの奏法研究2-二本指奏法

*1:「一瞬の静止」とは音程の曲線の頂点である場合も含みます。

曲線の頂点


邦楽コンサーティーナ3-竹田の子守唄 伴奏付き2

竹田の子守唄」の別の編曲を弾いてみたいと思います。

輪唱の形で高い旋律が1小節遅れでついていきます。ただし後発の旋律は5度高い同型で、4小節目はA民謡音階の下行型とも解釈できますし、2〜5小節はE民謡音階とも解釈できます。そして6小節目からはオクターブになっています。

 

竹田の子守唄伴奏付き2

 

これだけ2つの旋律が動くと、今の私にはかなり大変です。

1段目は上の譜面と同じ。2段目は右手の、3段目は左手の担当する音です。

竹田の子守唄 伴奏付き2分解

 

邦楽コンサーティーナ2-竹田の子守唄 伴奏付き1

「竹田の子守唄」に伴奏を付けます。

ここでは島田式による4度和音を想定します。下の譜面の1段目が旋律、2段目が和音です。

和音は基本形で書きました。*1上にある記号はコードネーム、下の記号は機能名です。このシリーズでは理論面はあまり深入りしません。

ですが一箇所だけ言うと3小節目は旋律がA民謡音階なのに対して和音はA都節音階を使いました。

旋律にある×印は和音外の音であることの印です。

竹田の子守唄A民伴奏付け1

2段目の和音から簡単な副旋律を作ります。それが3段目です。

音はこんな風になります。(機械演奏)

 

伴奏付き旋律の練習のため要素を分解してみます。

下の楽譜は1段目がメロディーと伴奏で符幹(音符の棒)が上を向いている音符が旋律声部で、下を向いているものが伴奏声部です。2段目は右手で弾く音を書いています。3段目は左手です。音符に付いている数字は指番号です。

竹田子守唄A民伴奏付き分解

 

ここでは伴奏声部は西洋音楽のベースラインではないので、もっと高い位置に置くこともできます。例では伴奏声部を2オクターブ上げ、主旋律の上に置いています。

竹田の子守唄A民伴奏1-2

いつでもこのように伴奏声部の音域を自由に替えられるわけではありませんが、ここでは音程関係的に支障ありません。

 

*1:和声の流れではありません。