外縁の響

音楽のガイエン、そしてゲエンとしての響

日本の音階とインドのラーガ比較1-伝統音階

ここでは各音列内の、おおよその音高要素のみ*1を比較します。

インドのラーガは音高、中心となる音、音の動き、ムード、演奏される時間帯や季節、エピソードなどを包括する旋律概念で、簡単に「音階」と呼べるようなものではありませんが、ここでは音高要素と中心音に抽象化して日本音階と比較してみます。日本の伝統音階については、拙稿「島田式」の「1,音階」を参照してください。

中国には5音音階と7音音階とがあるそうです。*2アフリカでも7音音階と5音音階を持っているようです。私の知るところでは、世界には5音音階の音楽を持つ民族、7音音階の音楽を持つ民族が多く、その両方を持っている民族もいます。

日本音階は5音音階です。西洋の音階は7音音階であり、単純に比較することはできません。また、日本音階は親音階を持ったいわゆるギャップド スケール*3でもありません。しかしラーガには5音、6音、7音のものがあります。音高要素以外にも共通点の多い日印の音楽ですが、ここでは日本音階と5音のラーガ(アウダヴ)について比較していきます。

4つの日本伝統音階の特徴の1つに「完全4度と完全5度は変位しない」ということがあります。ラーガでも「完全5度は変位しません」。南インド音楽理論ではこの原則から7音の親音階(ジャナカ メーラ)を作り出します。この72メーラカルター(分類法)のシステムは機械的に音高を埋めていくもので、理論的には原則下での全ての可能性を網羅しています。生み出された親音階から5音音階を導き出せば、当然日本音階もこの中に分類されるラーガと一致することになります。平たく言えば、インドにも日本音階と共通するラーガがある、という事です。

各日本音階名の右に記された数字は音階の1音目から2音目、2音目から3音目、3音目から4音目、4音目から5音目、5音目から1音目の1オクターヴ上の音への隔たりを半音の個数で示したものです。

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民謡音階 3 2 2 3 2 
Raga Madhukauns,(北)DhaniKouns(Malavika) (北), Udhayaravi Chandrika(南)

 

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琉球音階 4 1 2 4 1
Raga Jogwanti(北), HansBihag(北), Gambhiranata(南)

Raga Jogwanti

 

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律音階 2 3 2 2 3 
Raga Durga(北), JaladharKedar(北), Devakriya(南), Suddha Saveri(南), Arabhi(南)

 

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都節音階 1 4 2 1 4
Raga Gunkali(北),  Salanganata(南), Saveri(南), Gunakri (Gunakali)(南), Latantapriya(南)

 

 

 

*1:インドでは理論的にはオクターブを22分割、日本では核音はピタゴラス律で中間音は時代によって変化しているそうです。またここで言う「音列」とは、音階、旋法、ラーガを含む高さを持った音(楽音)のある集合と考えてください。

*2:中国の音楽理論では三分損益によって純正5度を繰り返すことで五声(5音音階 日本で言うところの呂音階)と七声(7音音階 西洋でいうところのリディアンスケール)が作られます。

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*3:ある音階(親音階)から特定の音を抜く事で作られた音階(子音階)