外縁の響

音楽のガイエン、そしてゲエンとしての響

日本の音階とインドのラーガ比較3-核音


西洋音楽では、同じ音列でも主音が違えば違う表情(長調短調)を持つ。つまり並行調ですね。

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並行調

もっと言えば、主音だけでなく属音(完全5度音)も違い、それによってメロディーも変わります。

これと同じようなものが日本伝統音楽にもあるかと言えば、あります。

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並行調-日本

主音は長2度違いですが、もう一つ重要な音が共通してソです。

日本伝統音階のこの重要な音を、民族音楽学者の小泉文夫氏は核音(カクオン)と呼びました。彼によれば、日本伝統音階は2つの核音を持ちます。そのうちの一つが主音ですが、もう一つの核音をここでは核2音と呼びます。

欧米音楽にマイナーペンタトニックスケールという音階があり、この音階は民謡音階と同じ音高音でできていて、主音も同じです。なので同じスケールと思われることが多いのですが、もう一つの核音が民謡音階では4度なのに対し、和音(コード)の関係などからマイナーペンタトニックスケールでは5度が重要な音となることが多いです。これにより、これら2つの音階は表情が異なります。

以下の楽譜に主音(赤音符)、核2音(青音符)を示します。(カッコ)内は異向型の導音です。

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核音

インド音楽には基準音と言われるものがあります。この音は楽器ごとに決まっていて動くことはありません。したがって音高は相対的で旋法の考え方はありません。基準音はドローンとしてタンプーラ*1などで演奏されます。

特に北インド音楽の場合、核音の問題はより複雑になります。基準音以外に各ラーガに主要音などと訳される音(ヴァーディ)と副主要音(サムヴァーディ)があり、ラーガの性格を表します。この音は核音的な場合から特徴音的な場合まで様々です。そしてその上、終止音(ニャーサ)がある物もあってラーガの性質をより鮮明にしています。

基準音を別にすればヴァーディ、サムヴァーディがより重要ですが、これらの音は多くの場合4度か5度の関係になっています。

日本伝統音階と同じ音列を持つラーガについてですが、私が調べられた限りでは、日本の核音とインドの主要音はあまり一致していません。それでもより近いものを挙げてみます。

●民謡音階ー主音:完全1度 核2音:完全4度

Raga DhaniKouns(Malavika)ー主要音:完全4度 副主要音:完全1度

琉球音階ー主音:完全1度 核2音:完全4度

音列としてはRaga Jogwantiが琉球に近いけれども主要音が明確にわからなかった。また、Vyjayantiというラーガ は5度音を基準音と考えると主要音が完全5度、副主要音が完全1度、本来の基準音が完全4度となり、琉球音階に近いと考えられます。*2

Raga Vyjayanti

●律音階ー主音:完全1度 核2音:完全5度

Raga Durgaー主要音:完全4度 副主要音:完全1度 

●都節音階ー主音:完全1度 核2音:完全5度

Raga Gunkali(Gunakree)ー主要音:短6度 副主要音:短2度

Lilavatiというラーガは5度音を基準音と考えると主要音が完全5度、副主要音が完全1度となり、都節音階に近いと考えられます。

Raga Lilavati

特に琉球音階と都節音階、Raga TilangとRaga Gunkaliでは主要音、副主要音に対して短2度の関係であることが興味深いです。*3

音階とは離れますが、実際の音楽では歌い回しが大きく音楽の印象を変えます。元々日本伝統音楽とインド音楽では共にメリスマ(日本で言うこぶし)が多く、装飾音の付け方にも共通する所が多いものの、インド音楽では極度に遅い音程変化など、バリエーションが特に豊富だと感じます。これはインド音楽の特徴の一つである「フレーズ内の音程は曲線的に変化する」(ポルタメントが多用される)ことと相まって、独特の雰囲気を醸し出します。これによって同じ音階であっても違った印象を受けるのです。この顕著な例は北インド古典音楽のアーラープという曲頭の部分で聴くことができます。

 

 

*1:ドローン専門の撥弦楽器です。副基準音のような完全5度(それがない場合完全4度)の音も多くの場合ドローンに加わります。

*2:インドには旋法の考え方はありませんからこれはあくまで分析の結果です。

*3:日本伝統音階は陰音階同士、陽音階同士で上下対称の形をとっています。偶然かもしれませんがここに挙げたラーガの主要音、副主要音もこの対称性に組み込めます。

琉球音階ー上に半音を4,1,2,4,1

都節音階ー下に半音を4,1,2,4,1

ずつ取ると、共に1つ目は主要音、2つ目は核2音、4つ目は副主要音、5番目は主音になります。

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上下対称