外縁の響

音楽のガイエン、そしてゲエンとしての響

インドの旋律とエスラジの奏法研究2-二本指奏法

二本指奏法とは

左手の手首の位置をポジションと呼ぶとすると、二本指奏法では1つのポジションで人差し指と、中指または薬指を使います。三本の指を使うのになぜ二本指奏法なのか、といえば、薬指は届きづらい時に中指の代わりとして使うからです。例えばエスラジの一番外側の弦(1弦)の低いサ=ドを人差し指で取るとレ=レは中指で取ります。ラーガまたは音階にレが無くサの次の音がガの場合は薬指で取ります。

例として、ドレミファ(サレガマ)と4つの音をひくのに一本指奏法では4つのポジションを取ることになりますが、二本指奏法では2つのポジションを使うことになり、単純に言えば手首の移動が半分の回数ですむことになります。このことによって明瞭に音程を出しつつ早いフレーズをひくことが容易になります。

二本指奏法サレガマ

階段のような線は音程の変化を表しています。二本指奏法ではポジション移動は瞬間的に行いますので、レとミの間もポルタメントには基本的にはなりません。ですから、前項の繰り返しになりますが、二本指奏法ではインド音楽特有の歌い回しである滑らかな音程変化にはなりません。反面、たとえば欧米音楽などを演奏する場合にはより有用な奏法と言えるでしょう。

このエスラジの基準音はDです。

二本指奏法の難点

この奏法では、習熟するのに難しい点があります。一本指奏法ならばどの指を使うかに迷うことはありませんが、二本指奏法では同じフレーズであっても複数の指使いが可能なため、「どの指を使うか迷う」という問題が出てきます。

これ以降、人差し指=1(指) 中指=2(指) 薬指=3(指)と呼びます。

例えば、下のサ=ドより上ではドレとひく時12で良いのですが、ドより低い音域、例えばソラなどとひく場合、距離が遠くなるので13を使ったりします。また、先ほどのフレーズ「ドレミファ」を1212とひく以外に1121とひくこともできます。そして特に五音音階(アウダヴァ)の場合には3指を多用することになるのでより練習が必要です。例えばミファミド(ガマガサ)とひく時は1231とも1211とも3331ともひくことができます。

このように複数の指使いの可能性がある場合、ひきにくいと思うやり方こそ練習しなければなりません。そうでないと特定のフレーズやラーガが他と比較してひきづらいことになり、手癖を多用しやすくなったり自由な即興のさまたげになると感じます。

一本指奏法と二本指奏法の混用

一本指奏法と二本指奏法で適した場面が違うことは書きましたが、前出の「ドレミファ」で1121の指使いのように一時的に1指が連続するだけでなく、1つのフレーズ内で両方の奏法を使うことも当然可能です。

例えば、ラーガ マルコーンスで

サマガダ|マガサニ|ダー (=ドファミ♭ラ♭|ファミ♭ドシ♭|ラ♭ー)

とひく場合、前半の4音は一本指、後半は二本指奏法でひくことが考えられます。

1111|2131|1ー

前半のようなギザギザした動きは一本指奏法では比較的得意なフレーズです。

別の指使いとして次のようなものも考えられます。

1113|1313|1ー

ところで、このマルコーンスというラーガではダ(ラ♭)をひく時にニ(シ♭)からポルタメントで下がってくるという規則があります。この指使いでひくとニとダは違う指となって単純にひくとポルタメントにはなりません。それでフレーズ最後のダをひく直前に1指をニまで瞬間的に上げてからゆっくりダまでおろす、つまりニの音で3指と1指を入れ替えるというテクニックを使います。

このエスラジの基準音はDです。

 

   →インドの旋律とエスラジの奏法研究3-手首の回転