律音階の異向形導音の使い方について解説します。
旋律としてのみの異向形導音
日本伝統音楽では和音を使わないため、旋律としてだけを考えれば良いわけです。島田式でもこの要素を最大限生かしたいと考えています。
アのように本来の中間音の長6度音(ラ)と異向形導音(以下、異導音 シ♭)は続けて鳴らすことはできません。イのようにこの2種類の中間音の間に別の音が入れば問題ありませんが、異導音(異向形導音)は主音(c)に限ったほうが良いです。ウのような使い方が一般的で、異導音が跳躍することは伝統的にはあまりありませんが、島田式では異導音が和音構成音なら可能です(エ)。また、主音への間接的な解決(オ)はありえます。
和音の中での異向形導音
既出の総和音に異導音を加えることができます。新たに異導音を含む異向形和音も使うことができます。
異導音を含めると核3を中音とする和音が作れます。これを核3和音と言うことがあります。この和音の下音を省略し、さらにその下に4度、つまり中音から下7度音を付加した和音も使えます(核3和音 下4x7)*1。さらに導音を中音とする導和音に、下7度音なしに10度音(中音の4度の4度の4度=3度音)シ♭を付加した和音も使うことができます。この形の導和音では上音gを省略することも可能です。
これらの異導音を含む和音内でも基本形の長6度音を使うことができますが、和音の伴奏など他の声部(ライン)と短2度、短9度を長く鳴らすのは避けた方が良いです。特に高い方の音がメロディーの場合は聞き辛いものです。ただし転回した長7度にすれば大丈夫(下譜例カ)で、ラとシ♭を混用する場合ラは高い位置にあった方が安全です。上の譜例最後の導和音もこのように配置した方が良いです。
比較的短時間この短2度を鳴らした時はキのようにラはソに、シ♭はドにそれぞれ反行するのが良いです。同方向に同音に進むのはちょっと変な感じがします(ク)。ただしケのように短時間、または違うリズムの場合は気にならないこともあります。
以上のように考えると、異導音を含む核3和音などを使うとラは少し使いづらくなりますが、逆に総和音の端に位置するこの音を使わないとC律ではなくなる、転調する、またはそのように聞こえることになります。
以下、ではどんな調になってしまうのか、またはどんな調にできるのかという理論の話になります。先に進みたい方は飛ばしてもかまいません。
似かよった調
基本音階でも1度律音階と長2度民謡音階のように主音(核音)が違うだけという関係もありますが、異向形導音を使うと音列としては他の音階と区別できない場合があります。
○4度律調と解釈できる
C律総和音と4度調であるF律の総和音を比べると5音が共通していて、この共通音はF律基本音階と一致します。つまりラを使わなければ4度律と同じ音階音を持つことになります。したがって機能は違いますが同じ和音を共有しているということにもなります。
○同主民謡調と解釈できる
異向形中間音を含めると、律音階は5度民謡音階と同音群からできています。つまりF律(上の譜例参照)とC民(下の譜例参照)は核音が違うだけでおなじ音群を使います。*2結果、C律とC民謡も5音の共通音(4度律基本音階)を持つことになり、長6度音がなければC民と区別できません。もちろん機能は違えど共通する和音も多くあります。
律調との共通和音
○ コンジャンクション型
ここからはより詳しい理論面の話になります。興味があったら読んでください。
伝統音楽ではディスジャンクション(分離)型が普通ですが、律上行形、民下行形にはテトラコルドのコンジャンクション(結合)型もあり、これもまた核音が変わりますが以下の4つの形は全て同じ構成音でできています。
民謡下行形以外は伝統音楽の観察、分析から来た小泉理論によるもので、島田式では演奏、作曲に直接関係ありません。しかし、結合型テトラコルドからドミナントを型通りに作ると、核2+2つの中間音で以下の和音ができます。
これが民謡、律調でこの形の和音が使える根拠の1つとなります。
和音の連結
旋律的に異向形導音と6度音は続けられないことは書きましたが、和音をつなげる時にもどこかの声部(ライン)でこれをやれば律音階ではなくなります。(ア、エ)一番低い声部を見てください。赤い音符は異向形導音です。
イまたはがウが回避策となります。
オは直接ではありませんが、導音を挟んで主音に解決しています。カのように非和声音(和音構成音以外の音 青い音符) cを入れても良いです。