外縁の響

音楽のガイエン、そしてゲエンとしての響

欧米音楽での5音音階1 -ミmptと都上-

 ここで書こうと思っているのは、長・短音階、3度和音の、いわゆる調性音楽上でペンタトニックスケール (五音音階)をメロディの創作や即興演奏にどのように活かせるか、というです。日本音楽畑の演奏家にとっても扱いやすい音階があるかと思います。

 多分、メイジャーキーではメイジャーペンタトニックスケール(以下、Mptと略記)を、マイナーキーではマイナーペンタトニックスケール(以下、mptと略記)を使うというのが一般的なのでしょうが、場面によっては違和感があったり変化に乏しく感じたりすることもあるのでは無いでしょうか。これに選択肢を増やすことで違和感の回避、表現の多様性を加えようという狙いです。

表現の多様化

 ここで扱うペンタトニックスケールは通常欧米音楽で使用されるメイジャーペンタトニックスケールやマイナーペンタトニックスケールだけではなく、ヨナ抜き音階を含む日本の音階も扱います。それによって日本的な表現の可能性も広げられると思います。

5音音階 索引

 ジャズなどでは、場合によってはマイナーキーだけでも3種類のダイアトニックコード群それぞれに使用可能なスケール(アヴェイラブルノートスケール)を設定しますが、平たく言えばメイジャーはどのダイアトニックコードでもドレミファソラシド、マイナーはラシドレミファソラで、もっと言えば音列としてはドレミファソラシドだけで後は各音の性質(主音とか属音とか)が違うだけです。

なのでこの論考でも最も単純な方法から考えていきたいと思います。

全てのダイアトニックコードに使えるミmpt

 スケールの音であってもコードの響を濁らせる音、機能を壊す音は長く伸ばしたりフレーズの最終音だったりすることを避けなければなりません。この音をアヴォイドノートと言い、多くの場合コードトーンの半音上の音です。キーCメジャーを例に取ると、eとf、bとcの間が半音ですから、fとcが無い音階はアヴォイドノートがほぼ無いペンタトニックスケールになります。このペンタトニックスケールはキーCメジャーならEmpt、つまり移動ド階名でミのmptで、このスケールは全てのダイアトニックコード*1の構成音に対して半音上でぶつかること無く使用することができます。

f:id:esrajs:20200415042214p:plain

ダイアトニックコードと合わせてみましょう。

f:id:esrajs:20191229083549j:plain音符の色はコードの中で○ルート(根音)●コードトーン●テンションまたは付加音●アヴォイドノート

 ただ1つあるアヴォイドノートはCメジャーキーのDm7でのbですが、この音はドミナント7thとの機能の差を曖昧にするため避けるように指定されているようです。しかし実際の演奏では割とよく使われており、特にメロディラインとして使う場合はそれほど気にする必要はないかと思います。

 ただし、このスケールにはメジャーキーの場合、主音ドが無いため、曲尾などの主和音上では必要と感じるなら適宜ドを演奏するか、後述する予定のメジャーペンタトニックスケールに替えることもできます。

マイナーキー

 上の譜例のように、Cメジャーキーの並行短調であるAマイナーキーでもEmpt、つまりミmptが使えます。マイナーキーの場合、このスケールの4度音に主音aがあるので、これを主音としてA律音階の上行形(譜例ではA律上と略記)を全てのナチュラルマイナースケールのダイアトニックコードでアヴォイド無しに使うことができます。

 f:id:esrajs:20191229175221j:plain

 細かく見ると違いはあるのですが、ここではマイナーペンタトニックスケールと民謡音階は同じ音階とみなします。

ハーモニックマイナーの場合

 マイナーキーの場合、短7度音が半音上がって長7度に、つまりソがソ♯になることがあり、A律上の短7度音と増1度でぶつかります。この音はブルーノート、または+9度のテンションと解釈できますが、気になるならE都節音階上行形を使うのはどうでしょう。

f:id:esrajs:20191230085705j:plain


 Emptのソをファに替えたのがE都節音階上行形です。それでもソ♯とラが半音でぶつかりアヴォイドノートになることは変わりません。フレーズではラは経過音として使う方が安全です。一方、その不安定さがドミナントの、ペンタトニックスケール の特徴を表しているとも言えると思います。

  最後に律上と都上を使ったマイナーキーの例をあげておきます。

f:id:esrajs:20191230143807j:plain

*1:調内のスケール音で作られるコード

目数の提案-5音音階の取り扱い

 このブログではなるべく簡単に理解してもらえるように書いていこうと思っているのですが、今回は特に非西洋音楽に興味のある西洋音楽方面の方に読んでいただきたい記事で、邦楽方面の方にはそれほど必要性がないかもしれません。しかもやや込み入った理屈の話なので五線譜を多用せざるを得ない記事となりました。概念的なものはすっ飛ばして読みたい方は「目数」からお読みください。

五線譜

西洋音楽で使われる五線譜ですが、長音階を書いてみます。

f:id:esrajs:20191219045348j:plain

線と間上に綺麗に並んでいます。もちろん西洋音楽用に作られたものですから当たり前ですけど。

この線と間は等しい音程でできている訳ではありませんよね。例えば下第一間(レ)と第一線(ミ)の音程は長2度で、第一線(ミ)と第一間(ファ)の音程は短2度です。その場所が短になるか長になるかは決まっていて、それでもこれらは全て2度ですから、そのレベルで言えば同じ間隔と言えなくもありません。

 では5音音階を五線譜で書き表すとどうでしょう。

f:id:esrajs:20191219051055j:plain

なんだか飛び飛びで綺麗には並んでいませんね。これは音程の表し方のレベルが違うからこうなる訳です。例えば間と線の音程を短2度に限定すれば、12音音楽には良いかも知れませんが長音階も飛び飛びの変な音階に見えます。

音程のレベル

 音程を言う時、その文脈でどの程度細かく言うかが変わります。度数の言い方の使い分けはある時は大雑把すぎ、ある時は煩雑になるので長短、完全増減を付けたり付けなかったりする訳です。分類の網の目、または写真の解像度みたいな物ですね。例えば和音の構成音を説明する時、「3度、その上に3度」と言っても無意味ですね。「長3度、その上に短3度」と言えば長和音(メジャーコード)になります。

度数1(2度とか3度とか)→度数2(短2度とか長3度とか)・ピッチクラス*1→律(ピタゴラス長2度とか純正長3度とか)・セント*2

右に行くほど音程の表現は細かくなります。

目数

度数で長と短のある2度を一括りに2度と言えるなら、音階の隣の音は全て2○と言える概念があれば便利だと思います。つまり度数の一つ上の概念。

この上位の概念を、(音階の)1つ目2つ目、1番目2番目という意味で目数と名付けたいと思います。1目2目、または1メ2メと表記します。

特に日本音階に適用する場合2目は短2度から長3度までを含む表現になります。赤い音符からの音階音の音程は以下のようになります。

f:id:esrajs:20191219060904j:plain

5音音階では6目がオクターブになります。複音程は(x-5)目、転回は(7-x)目。

音程レベル:目数(2目とか3目とか)→度数1(2度とか3度とか)→度数2(短2度とか長3度とか)・ピッチクラス→律(ピタゴラス長2度とか純正長3度とか)・セント

実際の使用

あるモチーフの形を全体の形を変えずに違う音高に移すことを移高と言い、そうしてできた新たな音形を移高形と言います。目数は5音音階でこれをやる時便利です。

はじめに西洋7音音階の例。

f:id:esrajs:20191219064342j:plain

長2°上に移高した例です。赤い音符からの移高形各音の音程は、度数1レベルで元の物と同じです。

しかし、もし度数で7音音階以外を移高するとおかしなことになる場合があります。

f:id:esrajs:20191219065431j:plain

移高後は元の律音階と五線譜上同じ形になりますが、C律音階からD律音階になってしまいます。
目数で移高すると

f:id:esrajs:20191219065734j:plain

また、音階を移し替えることもできます。*3

例として律音階を民謡音階に移してみます。

f:id:esrajs:20191219070441j:plain

度数だと全然変わってしまいますね。

後ろから前に進む形を逆行形と言いますが、目数を逆に読めば良いだけです。

f:id:esrajs:20191219072006j:plain

 これらの操作は作曲や分析、即興演奏のためのフレーズ作りに役立つと思います。 

 

*1:半音の数で音程を表す

*2:半音を100セントで表す対数単位

*3:一般的に移旋と呼ばれますが、旋法と言う語は多義的ですので言ってみれば移音階です。

日本の音階とインドのラーガ比較3-核音


西洋音楽では、同じ音列でも主音が違えば違う表情(長調短調)を持つ。つまり並行調ですね。

f:id:esrajs:20191207140832j:plain

並行調

もっと言えば、主音だけでなく属音(完全5度音)も違い、それによってメロディーも変わります。

これと同じようなものが日本伝統音楽にもあるかと言えば、あります。

f:id:esrajs:20191208010437j:plain

並行調-日本

主音は長2度違いですが、もう一つ重要な音が共通してソです。

日本伝統音階のこの重要な音を、民族音楽学者の小泉文夫氏は核音(カクオン)と呼びました。彼によれば、日本伝統音階は2つの核音を持ちます。そのうちの一つが主音ですが、もう一つの核音をここでは核2音と呼びます。

欧米音楽にマイナーペンタトニックスケールという音階があり、この音階は民謡音階と同じ音高音でできていて、主音も同じです。なので同じスケールと思われることが多いのですが、もう一つの核音が民謡音階では4度なのに対し、和音(コード)の関係などからマイナーペンタトニックスケールでは5度が重要な音となることが多いです。これにより、これら2つの音階は表情が異なります。

以下の楽譜に主音(赤音符)、核2音(青音符)を示します。(カッコ)内は異向型の導音です。

f:id:esrajs:20191207153719j:plain

核音

インド音楽には基準音と言われるものがあります。この音は楽器ごとに決まっていて動くことはありません。したがって音高は相対的で旋法の考え方はありません。基準音はドローンとしてタンプーラ*1などで演奏されます。

特に北インド音楽の場合、核音の問題はより複雑になります。基準音以外に各ラーガに主要音などと訳される音(ヴァーディ)と副主要音(サムヴァーディ)があり、ラーガの性格を表します。この音は核音的な場合から特徴音的な場合まで様々です。そしてその上、終止音(ニャーサ)がある物もあってラーガの性質をより鮮明にしています。

基準音を別にすればヴァーディ、サムヴァーディがより重要ですが、これらの音は多くの場合4度か5度の関係になっています。

日本伝統音階と同じ音列を持つラーガについてですが、私が調べられた限りでは、日本の核音とインドの主要音はあまり一致していません。それでもより近いものを挙げてみます。

●民謡音階ー主音:完全1度 核2音:完全4度

Raga DhaniKouns(Malavika)ー主要音:完全4度 副主要音:完全1度

琉球音階ー主音:完全1度 核2音:完全4度

音列としてはRaga Jogwantiが琉球に近いけれども主要音が明確にわからなかった。また、Vyjayantiというラーガ は5度音を基準音と考えると主要音が完全5度、副主要音が完全1度、本来の基準音が完全4度となり、琉球音階に近いと考えられます。*2

Raga Vyjayanti

●律音階ー主音:完全1度 核2音:完全5度

Raga Durgaー主要音:完全4度 副主要音:完全1度 

●都節音階ー主音:完全1度 核2音:完全5度

Raga Gunkali(Gunakree)ー主要音:短6度 副主要音:短2度

Lilavatiというラーガは5度音を基準音と考えると主要音が完全5度、副主要音が完全1度となり、都節音階に近いと考えられます。

Raga Lilavati

特に琉球音階と都節音階、Raga TilangとRaga Gunkaliでは主要音、副主要音に対して短2度の関係であることが興味深いです。*3

音階とは離れますが、実際の音楽では歌い回しが大きく音楽の印象を変えます。元々日本伝統音楽とインド音楽では共にメリスマ(日本で言うこぶし)が多く、装飾音の付け方にも共通する所が多いものの、インド音楽では極度に遅い音程変化など、バリエーションが特に豊富だと感じます。これはインド音楽の特徴の一つである「フレーズ内の音程は曲線的に変化する」(ポルタメントが多用される)ことと相まって、独特の雰囲気を醸し出します。これによって同じ音階であっても違った印象を受けるのです。この顕著な例は北インド古典音楽のアーラープという曲頭の部分で聴くことができます。

 

 

*1:ドローン専門の撥弦楽器です。副基準音のような完全5度(それがない場合完全4度)の音も多くの場合ドローンに加わります。

*2:インドには旋法の考え方はありませんからこれはあくまで分析の結果です。

*3:日本伝統音階は陰音階同士、陽音階同士で上下対称の形をとっています。偶然かもしれませんがここに挙げたラーガの主要音、副主要音もこの対称性に組み込めます。

琉球音階ー上に半音を4,1,2,4,1

都節音階ー下に半音を4,1,2,4,1

ずつ取ると、共に1つ目は主要音、2つ目は核2音、4つ目は副主要音、5番目は主音になります。

f:id:esrajs:20191208013605j:plain

上下対称

日本の音階とインドのラーガ比較2-異向型

西洋音楽(の調性音楽)では短調に3種類の音階がある、と説明されたと思います。この中に旋律的短音階がありますが、メロディーが上がる(上行)時と下がる時(下行)では使われる音が変わります。

f:id:esrajs:20191202090458j:plain

旋律的短音階

下がる時の自然的短音階に比べ、上がる時は6度音と7度音が半音上がります。

このようなメロディーの上行/下行に伴う変化はインドのラーガでも日本伝統音階でも起こることがあります。

ラーガの場合、それこそ様々な物があるのですが、例として「ラーガ ヤマン」を見てみます。

f:id:esrajs:20191202091708j:plain

ラーガ ヤマン

このラーガは上行も下行も7音ですが、上行に際してはドとソの音は省かれる事が多いのです。この事を楽譜に書き表すと上行5音、下行7音の様に見えますが、楽譜の書き方は教師により色々とあり、実際には使用頻度の問題なのです。上行が5音で下行が7音というラーガ(例えばビーンパラシィなど)もありますが、この場合上行の時に下行の残り2音を弾く事はできません。

日本伝統音階の場合は、分類上、上行音階と下行音階の別があり、それらの性格と逆方向に旋律が進む時に「伝統音階」で示した基本の音階とは違う音が使われることがあります。譜例では1小節目に本来の音階の向き、2小節目に逆向きの時使われることがある音を書きました。この形を個人的に異向型と呼んでいます。

f:id:esrajs:20191202095853j:plain

逆向型

これらの新しく示した2小節目の赤い音符は、全て2度で主音に接している、広義の導音と呼べるものです。*1そしてこれら各音階の2つの赤い音符の音は続けて使われることはありません。

これらにほぼ*2対応するラーガは以下の通り。

民謡音階:raga DevaKounsTypeII

琉球音階:該当無し

律音階:該当無し

都節音階:raga Bairagan

 

*1:導音は狭義では主音の短2度下にある音のことですが、その性格の同一性から核音に2度で接する音のことも導音と言います。基本になる音階にある導音と上下反対側ある長2度の音が使える、ということです。

f:id:esrajs:20191202103949j:plain

導音

*2:赤い音符の音が続く可能性があります

日本の音階とインドのラーガ比較1-伝統音階

ここでは各音列内の、おおよその音高要素のみ*1を比較します。

インドのラーガは音高、中心となる音、音の動き、ムード、演奏される時間帯や季節、エピソードなどを包括する旋律概念で、簡単に「音階」と呼べるようなものではありませんが、ここでは音高要素と中心音に抽象化して日本音階と比較してみます。日本の伝統音階については、拙稿「島田式」の「1,音階」を参照してください。

中国には5音音階と7音音階とがあるそうです。*2アフリカでも7音音階と5音音階を持っているようです。私の知るところでは、世界には5音音階の音楽を持つ民族、7音音階の音楽を持つ民族が多く、その両方を持っている民族もいます。

日本音階は5音音階です。西洋の音階は7音音階であり、単純に比較することはできません。また、日本音階は親音階を持ったいわゆるギャップド スケール*3でもありません。しかしラーガには5音、6音、7音のものがあります。音高要素以外にも共通点の多い日印の音楽ですが、ここでは日本音階と5音のラーガ(アウダヴ)について比較していきます。

4つの日本伝統音階の特徴の1つに「完全4度と完全5度は変位しない」ということがあります。ラーガでも「完全5度は変位しません」。南インド音楽理論ではこの原則から7音の親音階(ジャナカ メーラ)を作り出します。この72メーラカルター(分類法)のシステムは機械的に音高を埋めていくもので、理論的には原則下での全ての可能性を網羅しています。生み出された親音階から5音音階を導き出せば、当然日本音階もこの中に分類されるラーガと一致することになります。平たく言えば、インドにも日本音階と共通するラーガがある、という事です。

各日本音階名の右に記された数字は音階の1音目から2音目、2音目から3音目、3音目から4音目、4音目から5音目、5音目から1音目の1オクターヴ上の音への隔たりを半音の個数で示したものです。

f:id:esrajs:20191128005000j:plain

民謡音階 3 2 2 3 2 
Raga Madhukauns,(北)DhaniKouns(Malavika) (北), Udhayaravi Chandrika(南)

 

f:id:esrajs:20191128004948j:plain
琉球音階 4 1 2 4 1
Raga Jogwanti(北), HansBihag(北), Gambhiranata(南)

Raga Jogwanti

 

f:id:esrajs:20191128004928j:plain

律音階 2 3 2 2 3 
Raga Durga(北), JaladharKedar(北), Devakriya(南), Suddha Saveri(南), Arabhi(南)

 

f:id:esrajs:20191128004910j:plain
都節音階 1 4 2 1 4
Raga Gunkali(北),  Salanganata(南), Saveri(南), Gunakri (Gunakali)(南), Latantapriya(南)

 

 

 

*1:インドでは理論的にはオクターブを22分割、日本では核音はピタゴラス律で中間音は時代によって変化しているそうです。またここで言う「音列」とは、音階、旋法、ラーガを含む高さを持った音(楽音)のある集合と考えてください。

*2:中国の音楽理論では三分損益によって純正5度を繰り返すことで五声(5音音階 日本で言うところの呂音階)と七声(7音音階 西洋でいうところのリディアンスケール)が作られます。

f:id:esrajs:20191128103629j:plain

*3:ある音階(親音階)から特定の音を抜く事で作られた音階(子音階)

音楽にジャンルはない?音楽と楽器

音楽にジャンルは無い?

たまに「音楽は何でも好き」と言う人がいます。そんな言葉を聞くと「好きなタブラ(インド打楽器)奏者は?」とか「常磐津と新内どっちが好き?」とか聞きたくなります。もちろん、こんな質問は大抵の場合単なる意地悪です。聞きたくはなりますが実際聞いた事はありません。

もちろん分かっています。彼らが言うのはアンビエントやチルアウト、レゲエやダブの事を言っている事は。でも私に言わせればそれら全て欧米音楽ですけどね。

私自身を含め、人は自分のフィールド内でしか考えられないのは当たり前のことです。普段耳にする欧米系の音楽から一歩出る、そして膨大な空間と時間を持った音楽世界を味わう、まして全てを同列に感じるなんて神にしかできないのではないでしょうか。三次元の人間が四次元で生きるような物です。

しかし音楽には様々な民族、地域、時代のものがあり、それを好んで聞く人たちがいます。つまり人間の感性は単に個人が普段感じている物よりずっと幅があり、顕在化していない物も含めより大きな、豊かな物であると思います。だからこそ音楽は、人間は素晴らしいと。

日本伝統音楽

日本では明治以前と明治以後では全く音楽の方向が変わったと思います。土台としてはそれまでの音楽に中国(国では無く地域)からの大きな影響があり、明治以後は音楽取調係を中心にヨーロッパ音楽が重用されることになり、太平洋戦争後は欧米音楽がどっと入って来て、今では邦楽と言えば欧米ポップスのことで箏や三味線の音楽は純邦楽と言わなければ伝わらない時代になりました。

今の時代の日本伝統楽器奏者がどのような考えでそれをやっているのかはわかりませんが、日本伝統楽器で西洋クラシックやジャズやポップスを演奏する事も多いようです。これは聴衆に受け入れられるだろうと言う前提で選曲されたのでしょう。これは邦楽器*1の演奏ではあっても邦楽の演奏ではありません。つまり音楽は欧米系の音楽です。

音楽と楽器

例えばバイオリンは南インドでも古典音楽で使われます(チューニングなどのマイナーチェンジはありますが)。しかし音楽は完全にインド音楽です。奏法も異なります。ラビシャンカールがサックスの指導をしている動画も見たことがあります。重要なのは音楽です。その美です。楽器じゃありません。

音楽美があって楽器があるのです。その美に従って楽器が生み出され、奏法が確立されます。楽器もさらにそれらに従って改善されていくのだと思います。箏でバッハを弾いてバッハの音楽を再現できるでしょうか。私ならハープシコードなどで聞きたいですね。日本人が歌えば日本音楽というのも変な話です。

けれどもこれは邦楽器奏者だけの問題ではありません。日本の伝統音楽を、その美を引き継ぐ作曲家、作品が少ない事も原因でしょう。日本伝統音楽美を継承する事は聴衆からの大きな変化を必要とします。それは箏でバッハを弾いたりバンドで三味線弾くくらいでは追いつけないと感じています。

f:id:esrajs:20191120080122j:plain

結論

音楽にジャンルはあって欲しい。今日はフランス料理、明日はインド料理、その翌日は中華料理、みたいに。日本人は和食だけ食え、では無いけど、和食も忘れないでいたい。だからと言って、いや、だからこそ、ガンビア料理は多分うまくない、ではなくて一度は試したい。ヨーロッパ人の言う「世界三大料理」みたいな括り方はしたく無い。

 

*1:私が勉強した時代、和楽器という言葉は無かったと思います。私の持っている古い音楽之友社の「標準音楽辞典」にもありません。ウェブ検索では圧倒的に引っ掛かるのですが。そして、「邦楽」は近世邦楽のことではなく広義の日本伝統音楽の意味で使いました。

改造エスラジ1 -穴

バイオリンにはf字孔、ギターにはサウンド ホールという穴が空いています。二胡は裏が透かし彫りになっていてやはり外気とつながっています。

しかし日本の胡弓やエスラジには基本的に穴は無く、外気とつながってはいません。

「音が大きくなる」「音の抜けが良くなる」というウワサを聞いたことがあるので、音量を大きくするために穴を開けてみました。

f:id:esrajs:20191114010459p:plain

改造エスラジ 穴

胴に左右2つ。目みたいですね。それとエスラジは棹(ネック)も空洞で胴とつながっているので、小さめのを4つ主音(Sa)と属音(Pa)の位置に空けました。全部で6つ。

 

結果ですが、音量は多少大きくなった程度ですが、倍音のバランスは確実に変わります。革が裏から受ける圧力が無くなったことも影響があると思います。

低音成分が大きくなるのですが、その影響は1弦では小さくてあまり変わりません。2、3弦では確実に、4弦でははっきりとその差がわかります。(我々の流派では2、3弦は同じ物です。)

全体の音色変化としては、よりまろやかな音色になったと感じます。

効果が疑問だった棹の穴からも音が出ています。ただペグ側(上)の2つは効果が薄いです。

悪い点として外気の影響を受けやすくなる、つまり湿気を含んだ革の沈み込みがより大きくなることが予想できますが、今のところ実感したという事はありません。