外縁の響

音楽のガイエン、そしてゲエンとしての響

島田式における即興の技術-律3、フレーズ1

このシリーズので示した内容にそって、民謡フレーズとその応用について書きます。

フレーズの自作や作曲に役立てられるように理論面も書きましたが、実践を先にしたいという方は「解決音」から読み始ると良いでしょう。

奇数フレーズと偶数フレーズ

この記事「島田式における即興の技術」では基本的に音階主音をcに決めています。また、今後煩雑さをさけるために五線譜に調号を付けます。*1

等しい長さの音が偶数個(2x)順次(となりの高さの音に)進行し、なおかつそれに続く解決音(+1)がオクターブ内にあれば、その解決音は開始音から上下奇数目*2の音程になります。

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そうでない箇所(ア〜オ)が奇数回フレーズ内にあると解決音は開始音の偶数目になることもあります。*3

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解決音

ここで紹介する技法では、奇数目に解決するフレーズと偶数目に解決するそれとを区別します。それによって即興演奏の際、目的となる音にスムーズに解決することができます。

解決音は和音構成音にします。中でも中音に解決するといつでも安全です。

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和音構成音(白音符)はその和音の中で安定した音で、音階の核音が一時的にこれらの音に替わったと言えます。それ以外の非和音音は音階で言うと中間音と同じに動きます(黒音符)。和音構成音は長くのばしたり次の音に跳躍して達することができます。

律P1

はじめに奇数フレーズの一例を考えます。律フレーズ1(栗P1)と呼んでおきます。

ド、レ、ファ、レ、ド、ラ、ド、レ、|ドまたはファ

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このフレーズでは開始音から1目(同度)、または3目に解決します。 

この奇数フレーズは1つの和音内で使えるのはもちろん、異なる和音でも共通の構成音がある時つかうことができます。特に先に挙げたとおり、1つの調の(異向形和音を除く)3つすべての和音では核2音が共通して含まれます。それで解決音を核2として曲中どこでも使うことができます。

このシリーズでは同じ目数関係、同じリズムであれば移高しても同じフレーズと考えます。譜例では律の核2であるソを解決音とするP1を繰り返しています。

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練習曲 律P1(前半)

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*1:なぜC律調でbに♭が付くのかを説明します。五線譜が使われる西洋音楽では7音音階を使いますが、この中に階名で言うとド、ソ、レを主音とする3つの律音階が見つけられます。この中でソを主音とする律音階を3つの代表と考え、ソをcにとるとドはfとなり、ヘ長調(Fメジャー)と対応することになるため調号は♭1つとなるわけです。ソのモード、ミクソリディアに対応すると考えても良いです。

*2:音階音で何番目か-目数

*3:これについてはフレーズ2で書きます。

島田式における即興の技術-律2、律4度和音

音を5つ4度で重ねると日本音階の基本形5音すべてがあらわれます。島田式ではこれを3つの構成音による3つの和音にわけます。これらの和音は4度で構成された4度和音ですが、目数で見ると3目の音程でできています。*1

各和音の構成音は基本の形で上から上音、中音、下音と言います。下のアルファベットは中音を名前とした和音名、いわゆるコードネームです。

基本和音

この項では律音階基本形からできる和音を見ていきます。異向形中間音によってできる和音については別項で解説します。

前項で見たように音階音は核音と中間音とできていますが、Tには核音のみ、STには1つの中間音(導音)が入りDには2つの中間音が含まれます。譜例では中間音を黒音符にしてあります。

f:id:esrajs:20200425000301p:plainイタリア音名でも書いておきます。低い音を左から下音、中音、上音の順に書きました。カタカナは核音、ひらがなは中間音です。

T(トニック):ソ、ド、ファ ST(サブトニック):れ、ソ、ド D(ドミナント):ら、れ、ソ 

陽音階では、すべての基本和音が完全4度によってのみできています。そして各和音の機能はその構成音の種類によって、Tは安定した和音、Dは不安定な和音、STはその中間となります。そしてこれらの和音は西洋のものと違って進行、つまり順序の制限はありません。和音はその中音から主和音(T 核1和音)、核2和音(ST)、導和音(D)とも呼びます。

 D→Tの進行は最も重要です。理由は不安定→安定の落差が最大で、なおかつその2つの和音で音階すべての構成音が鳴ることになるからです。

f:id:esrajs:20200425000833p:plain下行形音階による調では導和音は主和音の2度上にあります。律音階では導音は長2度音で、これが2度下行して主音に解決します。(言うまでもなく導音の動きはそうでなければならないということではありません)和音も導和音が2度下行して主和音に進みます。

上の譜例4小節目のように、Tでは核3*2が省略されやすいです。これによって安定和音をより安定した協和音にできます。

省略和音と付加和音

ここからは今のところ即興演奏にそれほど影響がありません。

T以外にも中音以外の和音構成音を省略することができます。2小節目はSTですが、上音を省略してさらに4度上に音を付加することができます(3小節目)。島田式サイトでは違った言い方をしています*3が、付加された核3音fを中間音と考えると核2+2つの中間音ということでDに近い性格を持っています。

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*1:なぜ3度ではなく4度和音を使うのかというと、これは雅楽の合竹を参考に移動するテトラコルドというアイディアから来ています。

*2:下行音階(律音階と都節音階)では上音

*3:34導和音と呼んでいます

島田式における即興の技術-律1、律音階とその音階練習

音階はその構成音が同じでも中心となる音が違えば別の音階となります。小泉理論では日本伝統音階には核となる音が2つあり、一つは主音、もう一つは核音と呼ばれます。それ以外の間にある音は中間音と呼びます。島田式では主音=核1、核音=核2と言いますが、もう一つ場面に応じて核音としても中間音としても機能する音があり、これを核3と呼びます。譜例1はC=ハ=神仙を主音とした律音階です。

律音階

西洋音名で譜例はド、ラ、ソ、ファ、レ、ド ||ド、レ、ファ、ソ、シ♭、ド|です。

譜例

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島田式では主音に2度で接する音=導音*1が上にあり、下行して主音に進む音階を下行形音階と呼び、その2度が長2度である場合陽音階と呼びます。つまり、律音階は下行陽音階と言えます。また、下行音階である律音階の旋律が、(反対に)上がって主音に進む際、6度音(譜例ラ)に替わって短7度音(譜例シ♭)が使われる場合があります。この形を上行形(異向形)と言い、変化した短7度音を異向形導音または異向形中間音と呼ぶことがあります。これについては別項で説明します。

律音階の音階練習

このシリーズ記事は楽器自体の練習のためのものでは無いので、簡単に音階に慣れるための音階練習曲を挙げておきます。練習曲をひく速さ(テンポ)は適宜決めてください。ゆっくりから始め、正確にひけてからより早いテンポで練習しましょう。

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下に書いた数字は一段目が目数*2、二段目は度数(「完全」は省略)、三段目は音程間の半音の個数ですが、これだけは開始音から下に数えています。譜面はC律音階ですが必要な調子に移高する時に使えます。

次のものはより広い音域にわたっています。

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オクターブ以上の音程に目数をつけました。二段目は単音程*3に直した物です。

練習曲はどのオクターブかは問いません。楽器によっては音域が合わない、または足りない場合を考え、核2から始まる練習曲も挙げておきます。

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*1:狭義では主音の半音下の音のみが導音と言えますが、島田式では長、短2度で上下に主音(時には核音の場合も)に接する音を全て導音と呼びます。

*2:音階の何番目か

*3:オクターブ内の音程 最初の目数を例にとると6メー5=1メ

島田式における即興の技術-琉6、異向形導音

琉球音階の異向形導音の使い方について解説します。

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旋律としてのみの異向形導音

日本伝統音楽では和音を使わないため、旋律としてだけを考えれば良いわけです。島田式でもこの要素を最大限生かしたいと考えています。

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アのように本来の中間音の長3度音(ミ)と異向形導音(以下、異導音 レ)は続けて鳴らすことはできません*1。イのようにこの2種類の中間音の間に別の音が入れば問題ありませんが、異導音(異向形導音)の行き先は主音(c)にするのが安全です。

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ウのような使い方が一般的ですが、これが間接的に起こるエのようなこともあります。特に陰音階(都節音階と琉球音階)では異導音は比較的に安定していて島田式では異導音が和音構成音なら跳躍も可能です(オ)。カのように動く時もあります。

和音の中での異向形導音

既出の総和音に異導音を加えることができます。新たに異導音を含む異向形和音も使うことができます。

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異導音を含み核3を中音とする和音を核3和音と言うことがあります。この完全4度和音の上音を省略し、さらにその上に4度つまり中音から7度音を付加した和音も使えます(核3和音 上4x7)*2。また、導音を中音とする導和音に、7度なしに10度音(中音の4度の4度の4度=3度音 レ)を付加した和音も使うことができます。この形の導和音では下音fを省略することも可能です。そして琉球ではこの和音の上音も省略することができます。*3

これらの異導音を含む和音内でも長3度音(ミ)を使うことができます。

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ミとレを混用する場合は、キのようにミはファに、レはドにそれぞれ反行するのが良いです。同方向に同音に進むのはちょっと変な感じがします(ク)。ただしケのように短時間、または違うリズムの場合は気にならないこともあります。

以下は直接即興演奏には関係ありませんが、参考のため、作曲のために書いておきます。

和音の連結

旋律的に異向形導音と3度音は続けられないことは書きましたが、和音をつなげる時にもどこかの声部(ライン)でこれをやれば琉球音階ではなくなります。(ア、エ)一番高い声部(トップ)を見てください。赤い音符は異向形導音です。

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イまたはがウが回避策となります。

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オは直接ではありませんが、導音を挟んで主音に解決しています。カのように非和声音(和音構成音以外の音 青い音符) cを入れても良いです。

 

音階別リンク

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*1:ただし伝統的には音階によって頻度の差がかなりありながらも全くないとは言えません。琉球音階ではたまに起こります。

*2:以上2つの和音は同主律の核2和音の借用と考えられます。

*3:4度和音では2つ続けて省略すると3度和音と同じ構成音になってしまうため避ける必要があります。ただし陰音階ではこの和音は減3和音となるので使用します。

島田式における即興の技術-琉5、フレーズ2

フレーズの自作や作曲に役立てられるように理論面も書きましたが、実践を先にしたいという方は琉P2から読み始ると良いでしょう。

偶数フレーズ

前項で「等しい長さの音が偶数個(2x)順次(となりの高さの音に)進行し、なおかつそれに続く解決音(+1)がオクターブ内にあれば、その解決音は開始音から上下奇数目の音程になります。そうでない箇所(ア〜オ)が奇数回フレーズ内にあると解決音は開始音の偶数目になることもあります」と書きました。

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アは順次でなく跳躍進行している、イとウは同音を反復している、ウとエは音数が奇数、オはオクターブを超えた解決音によって開始音cの偶数目に解決しています。

アについては跳躍進行の目数によって解決音が奇数目か偶数目かが決まり、アのように跳躍が奇数目あれば解決音は偶数目となります。

琉P2

ここでは偶数フレーズの例を考えます。琉球フレーズ2(琉P2)と呼んでおきます。

ド、シ、ド、ソ、シ、ド、ミ、ファ、|ミまたはソ

第3と第4音の間が跳躍進行して3目になっています。

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このフレーズでは開始音から2目、または4目に解決します。

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琉P2反

ド、ミ、ド、ファ、ミ、ド、シ、ソ、|シまたはファ

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このフレーズでは開始音から下に2目、または下に4目に解決します。

練習曲

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曲例です。

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フレーズを倍の速さにしました。

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島田式における即興の技術-琉4、P1反行形

前項でやった琉球フレーズ1です。

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奇数偶数フレーズとも音程を上下反対にした反行形でもその性質は変わりません。

琉P1を上下反対にすると以下のようになります。

反行形:

ド、シ、ソ、シ、ド、ミ、ド、シ、|ドまたはソ

ド、シ、ソ、シ、ド、レ、ド、シ、|ドまたはソ

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7音音階用である五線譜に書くと見た目が綺麗な反行形に見えませんが、試しにP1とP1反の目数を足すと2か7になっています。このように反行形は足すと2+5xの目数になります。またこのフレーズでは反行形は前後逆にした逆行形とたまたま同じになります。

前の記事で書いた琉P1の練習曲と続けて練習しましょう。

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実際には曲の中でどう使えるか示します。

特に即興演奏の際、解決音(P1では9つ目の音)は所属する和音の中音になるのが安全です。陰音階*1では上音と下音が短2度になる可能性があり、不用意にこの音程を作る音に解決することは避けた方が良いからです。

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曲として続けて2回使う例です。

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*1:都節音階と琉球音階