外縁の響

音楽のガイエン、そしてゲエンとしての響

島田式における即興の技術-都3、フレーズ1

このシリーズので示した内容にそって、琉球フレーズとその応用について書きます。

フレーズの自作や作曲に役立てられるように理論面も書きましたが、実践を先にしたいという方は「解決音」から読み始ると良いでしょう。

奇数フレーズと偶数フレーズ

この記事「島田式における即興の技術」では基本的に音階主音をcに決めています。また、今後煩雑さをさけるために五線譜に調号を付けることもあります。

等しい長さの音が偶数個(2x)順次(となりの高さの音に)進行し、なおかつそれに続く解決音(+1)がオクターブ内にあれば、その解決音は開始音から上下奇数目*1の音程になります。

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そうでない箇所(ア〜オ)が奇数回フレーズ内にあると解決音は開始音の偶数目になることもあります。*2

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解決音

ここで紹介する技法では、奇数目に解決するフレーズと偶数目に解決するそれとを区別します。それによって即興演奏の際、目的となる音にスムーズに解決することができます。

解決音は和音構成音にします。中でも中音に解決するといつでも安全です。

f:id:esrajs:20200501080803p:plain和音構成音(白音符)はその和音の中で安定した音で、音階の核音が一時的にこれらの音に替わったと言えます。それ以外の非和音音は音階で言うと中間音と同じに動きます(黒音符)。和音構成音は長くのばしたり次の音に跳躍して達することができます。

都P1

はじめに奇数フレーズの一例を考えます。琉球フレーズ1(琉P1)と呼んでおきます。2小節目は異向形導音を使いました。(赤い音符)

ド、レ♭、ファ、レ♭、ド、ラ♭、ド、レ♭、|ドまたはファ

ド、レ♭、ファ、レ♭、ド、シ♭、ド、レ♭、|ドまたはファ

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どちらのフレーズも開始音から1目(同度)、または3目に解決します。 

この奇数フレーズは1つの和音内で使えるのはもちろん、異なる和音でも共通の構成音がある時つかうことができます。特に先に挙げたとおり、1つの調の(異向形和音を除く)3つすべての和音では核2音が共通して含まれます。それで解決音を核2として曲中どこでも使うことができます。

 このシリーズでは同じ目数関係、同じリズムであれば移高しても同じフレーズと考えます。譜例では都の核2であるソを解決音とするP1を繰り返しています。

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練習曲 都P1(前半)

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*1:音階音で何番目か-目数

*2:これについてはフレーズ2で書きます。

島田式における即興の技術-都2、都節4度和音

音を5つ4度で重ねると日本音階の基本形5音すべてがあらわれます。島田式ではこれを3つの構成音による3つの和音にわけます。これらの和音は4度で構成された4度和音ですが、目数で見ると3目の音程でできています。*1

各和音の構成音は基本の形で上から上音、中音、下音と言います。下のアルファベットは中音を名前とした和音名、いわゆるコードネームです。

基本和音

この項では都節音階基本形からできる和音を見ていきます。異向形中間音によってできる和音については別項で解説します。

前項で見たように音階音は核音と中間音とでできていますが、Tには核音のみ、SDには1つの中間音(導音)が入りDには2つの中間音が含まれます。譜例では中間音を黒音符にしてあります。

f:id:esrajs:20200430170455p:plainイタリア音名でも書いておきます。低い音を左から下音、中音、上音の順に書きました。カタカナは核音、ひらがなは中間音です。

T(トニック):ソ、ド、ファ ST(サブトニック):れ♭、ソ、ド D(ドミナント):ら♭、れ♭、ソ

陰音階では、トニックのみ完全4度でできた完全4度和音で、他の和音は増4度(レ♭〜ソ)を含む増4度和音になります。そして各和音の機能はその構成音の種類によって、Tは安定した和音、Dは不安定な和音、SDはその中間となります。そしてこれらの和音は西洋のものと違って進行、つまり順序の制限はありません。和音はその中音から主和音(T 核1和音)、核2和音(SD)、導和音(D)とも呼びます。

D→Tの進行は最も重要です。理由は不安定→安定の落差が最大で、なおかつその2つの和音で音階すべての構成音が鳴ることになるからです。

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下行形音階による調では導和音は主和音の2度上にあります。都節音階では導音は短2度音で、これが2度下行して主音に解決します。(言うまでもなく導音の動きはそうでなければならないということではありません)和音も導和音が2度下行して主和音に進みます。

上の譜例4小節目のように、Tでは核3*2が省略されやすいです。これによって安定和音をより安定した協和音にできます。

 陰調の核2和音、導和音はそれぞれ上音、下音の音程が長7度で、この音程は良いのですが転回すると短2度や短9度を作ります。この音程はかなりきびしい響きがしますので、メロディーや最高音がこの音程を作らないようにします。それで即興演奏などでは増4度和音で長い音を使えるのは和音中音となります。伴奏和音より高い音域の上音、低い音域の下音も短2度を作りません。つまり曲全体の縦の線も基本配置(下から下音、中音、上音)の様になるのが良いのです。

省略和音と付加和音

ここからは今のところ即興演奏にそれほど影響がありません。

T以外でも中音以外の和音構成音を省略することができます。上で書いたように増和音(核2和音と導和音)の上音下音の短2度(長7度)を避けるために下行音階では上音を省略することができます。

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次の例はSDですが、2小節目のように下音を省略してさらに4度下に音を付加することができます。島田式サイトでは違った言い方をしています*3が、付加された核3音gを中間音と考えると核2+2つの中間音ということでドミナントの性格を持っています。

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*1:なぜ3度ではなく4度和音を使うのかというと、これは雅楽の合竹を参考に移動するテトラコルドというアイディアから来ています。

*2:下行音階(律音階と都節音階)ではT上音

*3:34導和音と呼んでいます

島田式における即興の技術-目次

✳︎この記事は目次としてリンクをつけていきますが、随時公開する予定なのでしばらくは不完全な形になっていることをご了承ください。

0、

日本音階

1、音階とその練習 民謡音階 琉球音階 律音階 都節音階
2、4度和音 民謡音階 琉球音階 律音階 都節音階
3、フレーズ1 民謡音階 琉球音階 律音階 都節音階
4、P1反行形 民謡音階 琉球音階 律音階 都節音階
5、フレーズ2 民謡音階 琉球音階 律音階 都節音階
6、異向形導音 民謡音階 琉球音階 律音階 都節音階

二重の調

7、民謡と下行音階 ア、民調と律音階 イ、民謡と都節音階
8、琉球と下行音階 ウ、琉調と律音階 エ、琉球と都節音階
9、律と上行音階 オ、律調と民謡音階 カ、律と琉球音階
10、都節と上行音階 キ、都調と民謡音階 ク、都節と琉球音階

フレーズの変形

11、4音のフレーズ
12、フレーズの変形
13、フレーズ3

導和音の主和音化

14、民調導和音の主和音化
  ア、琉調主和音化 イ、琉調導和音の読み替え
  ウ、民調主和音化 エ、民調導和音の読み替え
15、律調導和音の主和音化
  オ、都調主和音化 カ、都調導和音の読み替え
  キ、律調主和音化 ク、律調導和音の読み替え
16、陰音階の付加導和音
  ケ、琉球音階の付加導和音 コ、都節音階の付加導和音

和音進行 

所属和音 陰音階の導和音 付加和音

陰化と陽化

陰化と陽化

導和音の主和音化2  民導和音の都主和音化 律導和音の琉主和音化

フレーズへの応用

合成音階

部分的陰化陽化 43和音

すれ

すれ
すれの和音
上行音階どうし
下行音階どうし

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島田式における即興の技術-都1、都節音階とその音階練習

小泉理論では日本伝統音階には核となる音が2つあり、一つは主音、もう一つは核音と呼ばれます。それ以外の間にある音は中間音と呼びます。島田式では主音=核1、核音=核2と言いますが、もう一つ場面に応じて核音としても中間音としても機能する音があり、これを核3と呼びます。譜例1はC=ハ=神仙を主音とした都節音階です。

都節音階

イタリア音名

ド、ラ♭、ソ、ファ、レ♭、ド ||ド、レ♭、ファ、ソ、シ♭、ド|

譜例

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島田式では主音に2度で接する音=導音*1が上にあり、下行して主音に進む音階を下行形音階と呼び、その2度が短2度である場合陰音階と呼びます。つまり、都節音階下行陰音階と言えます。また、下行音階である都節音階の旋律が、(反対に)上がって主音に進む際、短6度音(譜例ラ♭)に替わって短7度音(譜例シ♭)が使われる場合があります。この形を上行形(異向形)と言い、変化した短7度音を異向形導音または異向形中間音と呼ぶことがあります。これについては別項で説明します。

 

律音階の音階練習

このシリーズ記事は楽器自体の練習のためのものでは無いので、簡単に音階に慣れるための音階練習曲を挙げておきます。練習曲をひく速さ(テンポ)は適宜決めてください。ゆっくりから始め、正確にひけてからより早いテンポで練習しましょう。

f:id:esrajs:20200428211116p:plain下に書いた数字は一段目が目数*2、二段目は度数(「完全」は省略)、三段目は音程間の半音の個数ですが、これだけは開始音から下に数えています。譜面はC都節音階ですが必要な調子に移高する時に使えます。

次のものはより広い音域にわたっています。

f:id:esrajs:20200428211449p:plainオクターブ以上の音程に目数をつけました。二段目は単音程*3に直した物です。

 

練習曲はどのオクターブかは問いません。楽器によっては音域が合わない、または足りない場合を考え、核2から始まる練習曲も挙げておきます。

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*1:狭義では主音の半音下の音のみが導音と言えますが、島田式では長、短2度で上下に主音(時には核音の場合も)に接する音を全て導音と呼びます。

*2:音階の何番目か

*3:オクターブ内の音程 最初の目数を例にとると6メー5=1メ

島田式における即興の技術-律6、異向形導音

律音階の異向形導音の使い方について解説します。

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旋律としてのみの異向形導音

日本伝統音楽では和音を使わないため、旋律としてだけを考えれば良いわけです。島田式でもこの要素を最大限生かしたいと考えています。

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アのように本来の中間音の長6度音(ラ)と異向形導音(以下、異導音 シ♭)は続けて鳴らすことはできません。イのようにこの2種類の中間音の間に別の音が入れば問題ありませんが、異導音(異向形導音)は主音(c)に限ったほうが良いです。ウのような使い方が一般的で、異導音が跳躍することは伝統的にはあまりありませんが、島田式では異導音が和音構成音なら可能です(エ)。また、主音への間接的な解決(オ)はありえます。

和音の中での異向形導音

既出の総和音に異導音を加えることができます。新たに異導音を含む異向形和音も使うことができます。

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異導音を含めると核3を中音とする和音が作れます。これを核3和音と言うことがあります。この和音の下音を省略し、さらにその下に4度、つまり中音から下7度音を付加した和音も使えます(核3和音 下4x7)*1。さらに導音を中音とする導和音に、下7度音なしに10度音(中音の4度の4度の4度=3度音)シ♭を付加した和音も使うことができます。この形の導和音では上音gを省略することも可能です。

これらの異導音を含む和音内でも基本形の長6度音を使うことができますが、和音の伴奏など他の声部(ライン)と短2度、短9度を長く鳴らすのは避けた方が良いです。特に高い方の音がメロディーの場合は聞き辛いものです。ただし転回した長7度にすれば大丈夫(下譜例カ)で、ラとシ♭を混用する場合ラは高い位置にあった方が安全です。上の譜例最後の導和音もこのように配置した方が良いです。

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比較的短時間この短2度を鳴らした時はキのようにラはソに、シ♭はドにそれぞれ反行するのが良いです。同方向に同音に進むのはちょっと変な感じがします(ク)。ただしケのように短時間、または違うリズムの場合は気にならないこともあります。

以上のように考えると、異導音を含む核3和音などを使うとラは少し使いづらくなりますが、逆に総和音の端に位置するこの音を使わないとC律ではなくなる、転調する、またはそのように聞こえることになります。

 以下、ではどんな調になってしまうのか、またはどんな調にできるのかという理論の話になります。先に進みたい方は飛ばしてもかまいません。

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似かよった調

基本音階でも1度律音階と長2度民謡音階のように主音(核音)が違うだけという関係もありますが、異向形導音を使うと音列としては他の音階と区別できない場合があります。

4度律調と解釈できる

C律総和音と4度調であるF律の総和音を比べると5音が共通していて、この共通音はF律基本音階と一致します。つまりラを使わなければ4度律と同じ音階音を持つことになります。したがって機能は違いますが同じ和音を共有しているということにもなります。

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同主民謡調と解釈できる

異向形中間音を含めると、律音階は5度民謡音階と同音群からできています。つまりF律(上の譜例参照)とC民(下の譜例参照)は核音が違うだけでおなじ音群を使います。*2結果、C律とC民謡も5音の共通音(4度律基本音階)を持つことになり、長6度音がなければC民と区別できません。もちろん機能は違えど共通する和音も多くあります。

律調との共通和音

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コンジャンクション

ここからはより詳しい理論面の話になります。興味があったら読んでください。

伝統音楽ではディスジャンクション(分離)型が普通ですが、律上行形、民下行形にはテトラコルドのコンジャンクション(結合)型もあり、これもまた核音が変わりますが以下の4つの形は全て同じ構成音でできています。

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民謡下行形以外は伝統音楽の観察、分析から来た小泉理論によるもので、島田式では演奏、作曲に直接関係ありません。しかし、結合型テトラコルドからドミナントを型通りに作ると、核2+2つの中間音で以下の和音ができます。

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これが民謡、律調でこの形の和音が使える根拠の1つとなります。

和音の連結

旋律的に異向形導音と6度音は続けられないことは書きましたが、和音をつなげる時にもどこかの声部(ライン)でこれをやれば律音階ではなくなります。(ア、エ)一番低い声部を見てください。赤い音符は異向形導音です。

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イまたはがウが回避策となります。

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オは直接ではありませんが、導音を挟んで主音に解決しています。カのように非和声音(和音構成音以外の音 青い音符) cを入れても良いです。

 

音階別リンク

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*1:以上2つの和音は同主民の核2和音の借用と考えられます。

*2:基本形では律と核2民下、民と核2律上が、異向形を含めた調で見ると律と核2民調、民と核2律調の音階構成音は同じです。

島田式における即興の技術-律5、フレーズ2

フレーズの自作や作曲に役立てられるように理論面も書きましたが、実践を先にしたいという方は民P2から読み始ると良いでしょう。

偶数フレーズ

前項で「等しい長さの音が偶数個(2x)順次(となりの高さの音に)進行し、なおかつそれに続く解決音(+1)がオクターブ内にあれば、その解決音は開始音から上下奇数目の音程になります。そうでない箇所(ア〜オ)が奇数回フレーズ内にあると解決音は開始音の偶数目になることもあります」と書きました。

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アは順次でなく跳躍進行している、イとウは同音を反復している、ウとエは音数が奇数、オはオクターブを超えた解決音によって開始音cの偶数目に解決しています。

アについては跳躍進行の目数によって解決音が奇数目か偶数目かが決まり、アのように跳躍が奇数目あれば解決音は偶数目となります。

律P2

ここでは偶数フレーズの例を考えます。律フレーズ2(栗P2)と呼んでおきます。

ド、ラ、ド、ソ、ラ、ド、レ、ファ、|レまたはソ

第3と第4音の間が跳躍進行して3目になっています。

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このフレーズでは開始音から2目、または4目に解決します。

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律P2反

ド、レ、ド、ファ、レ、ド、ラ、ソ、|ラまたはファ

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このフレーズでは開始音から下に2目、または下に4目に解決します。

練習曲

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曲例です。

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フレーズを倍の速さにしました。

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島田式における即興の技術-律4、P1反行形

前項でやった律フレーズ1です。

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奇数偶数フレーズとも音程を上下反対にした反行形でもその性質は変わりません。

律P1を上下反対にすると以下のようになります。

反行形:ド、ラ、ソ、ラ、ド、レ、ド、ラ、|ドまたはソ

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7音音階用である五線譜に書くと見た目が綺麗な反行形に見えませんが、試しにP1とP1反の目数を足すと2か7になっています。このように反行形は足すと2+5xの目数になります。またこのフレーズでは反行形は前後逆にした逆行形とたまたま同じになります。

前の記事で書いた律P1の練習曲と続けて練習しましょう。

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実際には曲の中でどう使えるか示します。

特に即興演奏の際、解決音(P1では9つ目の音)は所属する和音の中音になるのが安全です。陰音階*1では上音と下音が短2度になる可能性があり、不用意にこの音程を作る音に解決することは避けた方が良いからです。

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曲として続けて2回使う例です。

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*1:都節音階と琉球音階